矯正治療の医療費控除、分割払いの場合はどう申請する?専門家が徹底解説
こんにちは。東京都葛飾区の歯医者 新小岩いろは歯科・矯正歯科、院長の細谷 亜沙美です。当院は矯正歯科を標榜しており、多くの患者様の歯並びのお悩みに向き合っています。矯正治療は、美しい口元だけでなく、健やかな噛み合わせという機能を取り戻すための素晴らしい投資ですが、治療費が高額になることも事実です。そのため、治療費の負担を少しでも軽減できる「医療費控除」の制度は、患者様にとって非常に重要です。先日、まさに今、矯正治療を頑張っていらっしゃる大学生の方から、このようなご質問をいただきました。
「矯正治療費が総額100万円以上かかり、支払いは2年間の分割払いです。1年目に約50万円、2年目に約50万円を支払うのですが、毎年50万円ずつ申請するのと、2年分まとめて100万円で申請するのとでは、控除額に差はありますか?親の扶養に入っています。」
これは、分割払いやデンタルローンで治療費をお支払いの方から非常によくいただく質問です。結論から申し上げますと、申請方法には明確なルールがあり、それを知っているかどうかでスムーズさが大きく変わります。今回はこの疑問に真正面からお答えし、医療費控除の基本から、分割払いの場合の正しい申請方法、そしてご家族の扶養に入っている場合の注意点まで、詳しく解説していきます。
目次
目次
- そもそも、大人の矯正治療は「医療費控除」の対象になる? 2.【結論】分割払いの申請ルール:「支払った年ごと」が絶対の原則です
- ご家族(扶養)の場合のポイント:誰が申請するのが一番お得か?
- 具体的にいくら戻る?控除額の計算方法をシミュレーション
- 申請の際に必ず必要になるもの:診断書と領収書の重要性
- まとめ
1. そもそも、大人の矯正治療は「医療費控除」の対象になる?
まず大前提として、すべての歯列矯正が医療費控除の対象となるわけではない、という点からご説明します。医療費控除の対象となるのは、「容貌を美化するための費用(美容目的)ではなく、病気の治療にかかった費用」と定められています。 お子様の矯正治療は、成長発育を促し、正常な噛み合わせを育成するという予防的な側面が強いため、ほぼ全てのケースで「治療目的」と認められ、医療費控除の対象となります。 一方、大人の矯正治療の場合は、その目的が問われます。例えば、「歯並びが悪いことで、咀嚼(そしゃく)に問題がある」「噛み合わせが悪く、顎関節に負担がかかっている」「歯並びのせいで清掃が難しく、虫歯や歯周病のリスクが高い」といった、機能的な問題を改善するための治療であれば、医療費控除の対象となります。逆に、「今より少しだけ見た目を良くしたい」といった美容目的のみの場合は、対象外と判断される可能性があります。この「治療目的であること」を証明するために、後述する歯科医師の「診断書」が重要になってきます。ご自身の治療が対象になるか不安な場合は、まずは担当の矯正医に確認してみましょう。
2.【結論】分割払いの申請ルール:「支払った年ごと」が絶対の原則です
ご質問の核心である「毎年50万円ずつ申請するのか、2年分まとめて100万円で申請するのか」について、結論を申し上げます。医療費控除の申請は、**「その年に、実際に支払った医療費」**に対して行うのが絶対のルールです。 つまり、2年分の治療費をまとめて翌々年に申請することはできません。 ご質問のケースでは、
- 1年目に支払った約50万円 は、その年の医療費として、翌年の確定申告期間(通常2月16日~3月15日)に申請します。
- 2年目に支払った約50万円 は、その翌年の確定申告で申請します。
これは、所得税の計算が「現金主義」という原則に基づいているためです。現金主義とは、「契約した日」や「治療が完了した日」ではなく、「実際にお金を支払った日(現金が手元から離れた日)」を基準に計上するという考え方です。したがって、100万円の治療契約を初年度に結んだとしても、支払いが2年にわたる場合は、それぞれの年に支払った金額を、それぞれの年で申告する必要があります。 「控除される額に差はあるのか?」という点については、ご両親の所得が大きく変動しない限り、2年間の合計還付額にほとんど差は生じません。 50万円ずつを2回に分けて申請しても、100万円を一度に申請(※これは制度上できませんが)したとしても、最終的に手元に戻ってくる金額の合計はほぼ同じになる、と考えていただいて結構です。
3. ご家族(扶養)の場合のポイント:誰が申請するのが一番お得か?
ご自身が大学生で、親御様の扶養に入っているという点も非常に重要なポイントです。医療費控除には、「生計を一にする親族の医療費は、合算して申告できる」という大きな特徴があります。これは、一緒に住んでいなくても、仕送りなどで生活を支えられている場合も含まれます。 そして、この制度を最も有利に活用するコツは、**「家族の中で最も所得金額(納税額)が多い人が、家族全員分の医療費をまとめて申告する」**ことです。 医療費控除は、所得税を納めている人が、納めすぎた税金を取り戻す(還付してもらう)ための手続きです。所得税は、所得が多い人ほど高い税率が課せられています。そのため、同じ控除額であっても、より高い税率で税金を納めている人(ご家族の中で最も所得の多い方)が申告した方が、結果的に手元に戻ってくる還付金の額が大きくなるのです。 したがって、ご質問のケースでは、ご自身(大学生)で申告するのではなく、ご両親のどちらか所得の多い方が、ご自身の矯正費用を、ご家族全員のその年の医療費と合算して申告するのが、最も賢い方法となります。
4. 具体的にいくら戻る?控除額の計算方法をシミュレーション
では、実際にどのくらいの金額が戻ってくるのか、具体的な数字で見てみましょう。 医療費控除の対象となる金額は、以下の式で計算されます。
(実際に支払った医療費の合計額 - 保険金などで補てんされる金額)- 10万円※ ※年間所得が200万円未満の場合は、所得金額の5%
ご質問者様の場合、親御様の所得が200万円以上とのことなので、10万円を差し引く計算になります。
【1年目のシミュレーション】
- 支払った矯正費用:50万円
- 控除対象額:50万円 - 10万円 = 40万円
この40万円が、まるごと返ってくるわけではありません。この40万円が親御様の「課税所得」から差し引かれ、所得が低くなった結果、所得税が安くなるという仕組みです。
仮に、申告する親御様の課税所得が500万円だったとします。この所得層の所得税率は20%です。
- 所得税の還付額(目安):40万円 × 20% = 約8万円
さらに、医療費控除を申請すると、翌年度の住民税も安くなります。住民税率は一律10%なので、
- 住民税の減額(目安):40万円 × 10% = 約4万円
つまり、1年目の申請で、合計約12万円の税負担が軽減される計算になります。2年目も同様に約50万円を支払った場合、ほぼ同額の軽減が見込めるため、2年間で合計約24万円もの負担を軽減できる可能性があるのです。これは非常に大きな金額ですね。
5. 申請の際に必ず必要になるもの:診断書と領収書の重要性
医療費控除を申請するにあたり、特に大人の矯正治療では、以下の2つの書類が非常に重要です。
- 領収書 分割払いの場合、その年に支払った分の領収書をすべて保管しておく必要があります。デンタルローンやクレジットカードで支払った場合は、信販会社の契約書やカードの利用明細などが支払いを証明する書類となります。
- 診断書 先述の通り、大人の矯正が「治療目的」であることを証明するために、担当の歯科医師が作成した診断書の添付を求められる場合があります。診断書には、現在の症状(不正咬合の種類など)や、治療が必要な理由が記載されます。これは私たちが書き慣れている書類ですので、お気軽にお申し付けください。
これらの書類を揃え、確定申告の際に「医療費控除の明細書」に内容を記入して提出します。今はe-Taxなどで電子申請も可能なので、以前より手続きは簡素化されています。
まとめ
高額な矯正治療費と分割払い、そしてご家族の扶養という状況での医療費控除について、ご理解いただけましたでしょうか。最後に、重要なポイントをもう一度おさらいします。
- 医療費控除の申請は、2年分をまとめることはできず、実際に支払った年ごとに行います。
- ご自身が扶養に入っている場合、ご家族で最も所得の多い方(親御様)が、家族全員分を合算して申告するのが最もお得です。
- 申請により、所得税が還付され、翌年の住民税も減額されます。トータルでは治療費の10%~20%以上が軽減される可能性も。
- 申請には、その年に支払った分の**「領収書」と、治療目的を証明する「診断書」**が重要です。
矯正治療は、未来の自分への大切な投資です。こうした制度を正しく活用し、少しでも賢く、負担を軽減しながら、理想の歯並びと健康な噛み合わせを手に入れていきましょう。もしご不明な点があれば、いつでもお気軽に私たち専門家にご相談ください。