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矯正に関する知識

「親知らずは全部抜くべき?」矯正を機に抜歯を決断した30歳OLのあなたへ

こんにちは。東京都葛飾区の歯医者 新小岩いろは歯科・矯正歯科、院長の細谷 亜沙美です。患者様がご自身の健康と真剣に向き合い、私たち専門家にご自身の考えを伝えてくださる瞬間は、歯科医師として非常に嬉しく、身が引き締まる思いがします。先日、まさにそのような、思慮深いご相談が寄せられました。

「30歳のOLです。下の親知らずが横向きに生えたせいか、前歯がガタついてきたため矯正を決意しました。先生からは『抜歯なしでも治せる』と言われましたが、将来また歯並びが乱れるのは嫌なので、抜歯を希望しました。この判断は正しいのでしょうか?そもそも、親知らずは全部抜いた方が良いのでしょうか?」

素晴らしいご判断だと思います。目先の治療だけでなく、5年後、10年後、さらにその先の未来まで見据えて、ご自身の治療方針を主体的に選択されたこと、心から敬意を表します。この「親知らずと歯並びの問題」は、特に20代後半から30代の方にとって、非常に大きな関心事です。今回は、この永遠のテーマともいえる「親知らずは抜くべきか?」という問いに、矯正歯科医の視点から、そしてあなたの賢明な判断を後押しする形で、詳しくお答えしていきます。

目次

1.【結論】「全ての親知らずを抜く必要はない」が、あなたのケースは別 2. なぜ?矯正医が「横向きの親知らず」の抜歯を強く勧める理由 3.「今は痛くないのに…」30代で抜歯する、未来への大きなメリット 4. 歯科医師の「抜歯せずとも治る」という言葉の真意とは 5. 上の親知らずはどうする?噛み合わせのパートナーがいない歯の未来 6. まとめ

1.【結論】「全ての親知らずを抜く必要はない」が、あなたのケースは別

まず、大原則からお話しします。「親知らずは、必ずしも全て抜かなければならない」というわけではありません。まっすぐに生えていて、上下でしっかりと噛み合っており、歯磨きも問題なくできていて、虫歯や歯周病のリスクがない「良い親知らず」であれば、あえて抜く必要はないのです。大切な奥歯の一つとして、生涯機能してくれることもあります。

しかし、これはあくまで「理想的な親知らず」の場合です。ご相談者様のように、「歯茎に埋もれて横向きに生えている親知らず」は、話が全く別です。 このタイプの親知らずは、現在症状がなくても、将来的に様々な問題を引き起こす可能性が極めて高い、「時限爆弾」のような存在と言えます。

したがって、あなたの「抜歯を希望した」というご判断は、将来起こりうる様々なリスクを回避するための、極めて賢明で、予防的な素晴らしい選択であると、私は断言します。

2. なぜ?矯正医が「横向きの親知らず」の抜歯を強く勧める理由

では、なぜ私たち矯正歯科医が、特に横向きに埋まっている親知らず(水平埋伏智歯)の抜歯を重要視するのでしょうか。それには、あなたの歯並びを悪化させた直接的な原因と、矯正治療の成功に関わる、2つの大きな理由があります。

理由①:前歯の歯並びを悪化させる「押し出す力」 これが、まさにあなたが今経験されている問題です。横向きに生えた親知らずは、手前の奥歯(第二大臼歯)の根元を、じわじわと前に向かって押し続けます。その力は、まるで将棋倒しのように、奥歯から一つずつ前の歯へと伝わっていき、最終的に一番弱い部分である「下の前歯」に力のしわ寄せが集中します。その結果、元々は綺麗だったはずの前歯が、スペースを失い、重なり合ってガタガタになってしまうのです。この親知らずの「押し出す力」を取り除かない限り、いくら矯正治療で前歯を綺麗に並べても、常に後ろから押され続けることになり、治療がスムーズに進まなかったり、治療後に再び歯並びが乱れる「後戻り」の大きな原因になったりします。

理由②:矯正治療の「歯を動かすスペース」の確保 歯列矯正は、歯を動かして並べるためのスペースが必要です。親知らずが存在することで、奥歯を後ろに動かす(遠心移動)という選択肢が制限されてしまいます。親知らずを抜歯することで、歯列全体を後ろに下げるための貴重なスペースが生まれ、治療計画の自由度が格段に上がり、より理想的な歯並びを実現しやすくなるのです。

3.「今は痛くないのに…」30代で抜歯する、未来への大きなメリット

「今は特に痛くも腫れてもいないのに、わざわざ抜くのは…」と感じるお気持ちもよく分かります。しかし、30歳の「今」、抜歯を決断されたことには、計り知れないメリットがあります。

  • 回復力が高い:言うまでもなく、40代、50代よりも30代のほうが、体の回復力(治癒能力)は旺盛です。抜歯後の骨の回復も早く、体への負担も比較的少なく済みます。
  • 隣の歯へのダメージを防ぐ:横向きの親知らずを放置すると、手前の健康な奥歯との間に深い隙間ができ、そこに汚れが溜まって、手前の歯が虫歯や重度の歯周病になってしまうリスクが非常に高いです。最悪の場合、親知らずだけでなく、その手前の大切な奥歯まで失うことになりかねません。
  • 将来の全身疾患のリスクに備える:年齢を重ねると、高血圧や糖尿病など、外科処置に影響を及ぼす可能性のある全身疾患を持つ可能性が高まります。若く、健康なうちに、将来のリスクとなりうる親知らずを抜いておくことは、非常に賢い健康管理と言えます。
  • 妊娠・出産期に備える:女性の場合、妊娠中はホルモンバランスの変化で歯茎が腫れやすく、親知らずが急に痛み出す(智歯周囲炎)ことがあります。しかし、妊娠中、特に安定期以外は、抜歯や強い痛み止めの服用が困難です。大切な時期に「親知らずが痛むかも」という不安を抱えずに済むのは、大きな精神的メリットです。

4. 歯科医師の「抜歯せずとも治る」という言葉の真意とは

最初の先生が言われた「親知らずの抜歯せずともマウスピースで歯並びは治る」という言葉。これも、決して間違いではありません。現在のガタつきを解消するだけであれば、歯の表面をわずかに削ってスペースを作る(IPR)などの方法で、親知らずを抜かずに治療を完了させることは、技術的には可能です。

しかし、これはあくまで「今ある問題を解決する」という短期的な視点です。それに対し、あなたの「またいつかガタつくことになるならお金を損したことになる」というお考えは、「原因を根本から取り除き、長期的に安定した歯並びを維持したい」という、より長期的で本質的な視点です。

矯正治療は、決して安価ではない、時間もかかる自己投資です。その投資価値を最大化するために、将来のリスクを先読みし、根本原因を取り除くという選択をされたことは、歯科医師として心から「素晴らしい」と思います。

5. 上の親知らずはどうする?噛み合わせのパートナーがいない歯の未来

下の親知らずを抜いた場合、上の親知らずの抜歯も検討が必要になることがあります。「上の歯並びは全く異常なし」とのことですが、もし上の親知らずがまっすぐ生えていても、噛み合う相手である下の親知らず(あるいはその手前の歯)がなくなると、**相手を求めて徐々に下に伸びてきてしまう(挺出)**ことがあります。

伸びてきた上の親知らずは、下の歯茎を噛んでしまったり、頬の粘膜を傷つけたり、さらには全体の噛み合わせのバランスを崩す原因になったりすることがあります。上下の親知らずはセットで考えるのが基本です。下の親知らずを抜歯するなら、将来的なリスクを考え、噛み合う相手のいない上の親知らずも、同時に、あるいは時期を見て抜歯した方が良いケースが多い、ということも覚えておくと良いでしょう。

まとめ

「親知らずは全部抜いた方がいいですか?」というご質問に対する、あなたへの答えは、「あなたのケースの場合、将来の歯並びと健康のために、抜歯を決断されたことは大正解です」となります。

30歳という年齢で、ただ言われた通りに治療を受けるのではなく、ご自身の未来を見据え、根本的な原因解決のために「抜歯」という選択をされたこと。その主体的な姿勢こそが、矯正治療を成功に導き、生涯にわたって美しい歯並びを維持するための、最も大切な鍵となります。

これから始まる矯正治療、そして抜歯への不安もあるかと思いますが、その先には、自信に満ちた笑顔と、将来の不安から解放された健やかな毎日が待っています。私たちは、その素晴らしい決断を全力でサポートします。

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