ワイヤー矯正中の食事、何を食べればいい?食べやすい物・避けるべき物を矯正歯科医が解説!
こんにちは。東京都葛飾区の歯医者、新小岩いろは歯科・矯正歯科 院長の細谷 亜沙美です。念願の歯列矯正、特にワイヤー矯正(ブラケット矯正)をスタートされた方、あるいはこれから始めようとされている方から、治療そのものと同じくらい多く寄せられるのが、「食事」に関するご不安です。
「矯正装置をつけたら、何を食べたらいいの?」 「痛くて噛めない時はどうすれば…」 「好きなものが食べられなくなるって本当?」 「装置が壊れたり、外れたりしないか心配…」
歯並びを美しく整えるためには、ある程度の期間、お口の中に装置を入れて生活する必要があります。そして、その期間中の食生活には、確かにいくつかの注意点と工夫が必要になります。しかし、過度に心配しすぎる必要はありません。ポイントさえ押さえれば、矯正中でも食事を楽しみ、必要な栄養をしっかりと摂ることは十分に可能です。今回は、ワイヤー矯正中の食事について、なぜ注意が必要なのか、具体的にどんな食べ物を避けるべきか、そして、装置を付けたばかりの痛い時期でも食べやすいおすすめメニューや、慣れてきた頃の食事の工夫まで、皆さんの疑問や不安を解消できるよう、詳しく解説していきます。
目次
1. なぜ食事制限が必要?ワイヤー矯正中の食事で気をつけるべき3つの理由

「どうして矯正中は、食べ物に気をつけないといけないの?」まずは、その根本的な理由からご説明します。主に、以下の3つの大きな理由があります。
一つ目は、「痛みへの配慮」です。ワイヤー矯正は、歯に持続的な力をかけて動かしていく治療です。特に、装置を初めて装着した後や、月に一度の調整(ワイヤー交換など)を行った後の数日間は、歯が動くことによる痛み(歯が浮くような、あるいは締め付けられるような鈍い痛み)を感じやすい時期です。このような時に硬いものを無理に噛もうとすると、痛みが強く出てしまい、食事が苦痛になってしまいます。また、装置が頬や舌の粘膜に当たって口内炎ができている場合も、刺激の強い食べ物や硬い食べ物は、痛みを増強させる原因になります。まず、ご自身の歯や粘膜を守り、ストレスなく食事をするために、食べ物の種類や硬さを考慮する必要があるのです。
二つ目は、「装置の破損・脱落リスクの回避」です。歯の表面に接着しているブラケットや、そこを通っているワイヤーは、非常に精密に作られていますが、想定外の強い力がかかると、残念ながら壊れたり、外れたりしてしまうことがあります。特に、お煎餅のような極端に硬いものをガリっと噛んだり、キャラメルのような粘着性の高いものを食べたりすると、ブラケットが歯から剥がれてしまったり、ワイヤーが曲がったり、外れたりするリスクが非常に高くなります。装置が破損・脱落すると、計画通りに歯を動かす力がかからなくなるため、治療期間が延びてしまう原因になります。また、壊れた装置を付け直すために、予定外の来院が必要になることもあります。スムーズに治療を進めるためには、装置にダメージを与える可能性のある食べ物を避けることが、非常に重要なのです。
三つ目は、「清掃性の問題と虫歯リスク」です。ワイヤー矯正の装置は、歯の表面に固定されているため、取り外しができません。ブラケットの周りやワイヤーの下は、食べ物のカスが非常に挟まりやすく、そして歯ブラシが届きにくい「プラーク(歯垢)の温床」となりやすい環境です。プラークは虫歯や歯周病の直接的な原因となります。粘着性の高い食べ物や、繊維質の多い野菜などが装置に絡みついたまま放置されると、お口の中の衛生状態が悪化し、矯正治療中に虫歯ができてしまうリスクが高まります。せっかく歯並びが綺麗になっても、虫歯だらけになってしまっては元も子もありません。清掃しにくい食べ物を避け、食後のケアを徹底することが、健康な歯を守るために不可欠なのです。これらの理由から、ワイヤー矯正期間中の食事には、少しだけ注意と工夫が必要になる、というわけです。
2. 要注意!ワイヤー矯正中に避けるべき食べ物リストとその理由

では、具体的にどのような食べ物を避けるべきなのでしょうか。装置の破損や清掃の困難さといった観点から、代表的なものをリストアップし、その理由も合わせて解説します。
- 極端に硬い食べ物
- 例:お煎餅、ナッツ類(アーモンドなど)、氷、硬い飴、骨付き肉の骨、フランスパンの硬い部分、りんごや人参の丸かじり
- 理由:噛み砕く際に非常に強い力がかかり、ブラケットが欠けたり、歯から剥がれたり、ワイヤーが変形したりするリスクが最も高い食べ物です。特に前歯でかぶりつくのは絶対に避けましょう。りんごなどは、小さくカットすれば食べられます。
- 粘着性の高い食べ物(くっつきやすいもの)
- 例:キャラメル、ガム、ハイチュウなどのソフトキャンディ、お餅、ヌガー、ドライフルーツの一部
- 理由:装置に強力に粘りつき、取り除くのが非常に困難です。無理に取ろうとすると、ブラケットが外れたり、ワイヤーが引っ張られて変形したりする原因になります。また、糖分が多く、装置周りに長時間残存するため、虫歯のリスクも非常に高くなります。ガムは基本的にNGです。
- 繊維質の多い野菜など(絡まりやすいもの)
- 例:ほうれん草、えのき、ニラ、ネギ、もやし、コーンなど
- 理由:細い繊維がワイヤーやブラケットの隙間に複雑に絡みつきやすく、歯ブラシだけではなかなか取り除けません。見た目もあまり良くなく、口臭の原因にもなり得ます。食べる際は、できるだけ細かく刻んで調理するなどの工夫が必要です。
- 前歯で噛み切る必要のある食べ物
- 例:ハンバーガー、サンドイッチ、お寿司(大きいもの)、麺類(すすって食べる場合)
- 理由:前歯のブラケットは、奥歯に比べて外れやすい傾向にあります。大きく口を開けて前歯で噛み切る動作は、ブラケットに直接的な負荷を与えます。ハンバーガーなどはナイフとフォークで小さくカットしたり、麺類はレンゲを使うなど、前歯への負担を避ける食べ方を心がけましょう。
- 色の濃い食べ物・飲み物(※特に審美ブラケットの場合)
- 例:カレー、ミートソース、キムチ、醤油、ソース、コーヒー、紅茶、赤ワイン、ぶどうジュースなど
- 理由:金属製のメタルブラケットの場合はあまり気にする必要はありませんが、歯の色に近いセラミックブラケットやプラスチックブラケット、そしてワイヤーを固定している透明やカラーのゴム(モジュール)は、これらの色素が付着し、着色してしまうことがあります。特にカレーは、ゴムを一瞬で黄色く染めてしまうため、調整日の前日などに食べるのは避けた方が無難です。着色が気になる場合は、色の薄い食事を選んだり、食後すぐに歯を磨いたりするなどの対策が必要です。
これらのリストを見て、「食べられるものがほとんどないじゃないか!」と悲観的になる必要はありません。あくまで「特に注意が必要なもの」であり、調理法や食べ方を工夫すれば、多くの食材を楽しむことは可能です。
3. 調整直後や痛い時に!食べやすくて栄養も摂れるおすすめメニュー

ワイヤー矯正を始めたばかりの頃や、月に一度の調整を行った後の数日間は、歯が動くことによる痛みで、普段通りの食事が難しくなることがあります。「噛むと痛い」「歯が浮いた感じがする」といった症状は、歯が正しく動いている証拠でもあるのですが、やはり辛いですよね。そんな時でも、栄養をしっかり摂り、ストレスなく食べられる、おすすめのメニューをご紹介します。ポイントは「あまり噛まなくても飲み込める柔らかさ」と「栄養バランス」です。
- 主食
- おかゆ、雑炊:消化も良く、体も温まります。卵や野菜を加えれば栄養価もアップ。
- うどん(柔らかく煮込んだもの):麺類の中でも特に柔らかく、食べやすいです。具材も細かく刻むと良いでしょう。
- リゾット:お米と具材を一緒に煮込むので、全体的に柔らかく仕上がります。
- 豆腐:冷奴や湯豆腐など、そのまま食べられる手軽さも魅力。タンパク質も豊富です。
- パン:柔らかい食パンや、スープに浸したパンなど。
- 主菜(タンパク質源)
- 卵料理:スクランブルエッグ、オムレツ、茶碗蒸し、だし巻き卵など、調理法も豊富。
- ひき肉料理:ハンバーグ(柔らかく煮込んだもの)、ミートボール、麻婆豆腐など。
- 魚料理:白身魚の煮付けや蒸し料理、ツナ缶など。骨に注意が必要な魚は避けましょう。
- 鶏肉料理:柔らかく煮込んだ鶏肉、鶏団子など。
- 副菜(ビタミン・ミネラル源)
- スープ、ポタージュ:野菜をたっぷり煮込んでミキサーにかければ、栄養満点。
- マッシュポテト、かぼちゃの煮物:柔らかく、自然な甘みもあります。
- 野菜の煮物:大根、カブ、ナスなど、柔らかく煮込める野菜を選び、細かくカットする。
- すりおろし野菜:りんごや大根など、すりおろすことで食べやすくなります。
- その他(デザート・間食)
- ゼリー、プリン、ムース:噛まずに食べられ、気分転換にもなります。
- ヨーグルト、アイスクリーム:冷たいものは、痛みを和らげる効果も期待できます。
- スムージー、プロテインドリンク:果物や野菜、タンパク質を手軽に摂取できます。
痛みが強い時期は、無理に固形物を摂ろうとせず、栄養価の高いスープやドリンクなどを活用するのも良い方法です。また、矯正治療中は、歯を動かすために骨の代謝が活発になります。タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、バランスの取れた食事を心がけることが、スムーズな治療にも繋がります。痛みが落ち着いたら、徐々に普段の食事に戻していきましょう。
4. 慣れてきたら食事を楽しむ!矯正中でも安心な調理と食べ方の工夫

矯正装置に慣れてきて、調整後の痛みも少なくなってきたら、少しずつ食べられるものの幅を広げていきましょう。ただし、油断は禁物です。避けるべき食べ物は念頭に置きつつ、ちょっとした「調理の工夫」と「食べ方の工夫」で、矯正中でも食事を安全に、そして楽しむことができます。
【調理の工夫】
- 食材は小さく、薄くカットする:これが基本中の基本です。肉や野菜など、一口で食べられる大きさにカットしておけば、前歯で噛み切る必要がなくなり、奥歯で噛む際の負担も軽減されます。りんごなども、薄くスライスすれば食べやすくなります。
- 柔らかく調理する:煮込み料理や蒸し料理は、食材を柔らかくし、装置への負担を減らすのに効果的です。圧力鍋などを活用するのも良いでしょう。硬い根菜なども、じっくり火を通せば美味しく食べられます。
- 繊維を断ち切るように切る:ほうれん草などの葉物野菜や、お肉の筋などは、繊維を断ち切るように細かく切ることで、装置に絡まりにくくなります。
- ミキサーやフードプロセッサーを活用する:野菜や果物をスムージーにしたり、食材をペースト状にしたりするのも良い方法です。
【食べ方の工夫】
- ゆっくり、よく噛む:慌てて食べると、思わぬ力がかかって装置を壊したり、粘膜を傷つけたりする原因になります。一口ずつ、ゆっくりと味わって食べる習慣をつけましょう。
- 奥歯で噛むことを意識する:前歯は食べ物を噛み切る役割が主ですが、矯正中はできるだけ奥歯で噛むように意識しましょう。前歯のブラケットが外れるリスクを減らせます。
- 一口の量を少なくする:一度にたくさん口に入れると、装置に絡まりやすくなったり、噛みにくかったりします。少しずつ、口に運ぶようにしましょう。
- 外食時のポイント:メニューを選ぶ際は、柔らかいもの(煮込み料理、豆腐料理、卵料理、麺類など)を選ぶと安心です。硬そうなお肉などは、お店の方に小さくカットしてもらうようお願いするのも良いでしょう。
少しの工夫で、食べられるものは格段に増えます。「あれもダメ、これもダメ」と制限ばかり考えるのではなく、「どうすれば食べられるかな?」と前向きに考えることが、矯正期間中の食生活を豊かにするコツです。
5. トラブルを防ぎスムーズに治療を進めるために。食事以上に大切な食後のケア

ここまで、矯正中の食事について詳しくお話ししてきましたが、食事の内容と同じくらい、いや、それ以上に重要と言っても過言ではないのが、「食べた後のケア」です。ワイヤー矯正の装置周りは、驚くほど食べ物が詰まりやすく、プラークが溜まりやすい環境です。これを放置してしまうと、虫歯や歯肉炎、口臭といったトラブルを招き、最悪の場合、矯正治療の中断にも繋がりかねません。健康な歯で、最高の笑顔で治療を終えるために、食後のケアは絶対に徹底しましょう。
- 食べたら「すぐに」「丁寧に」歯を磨く:毎食後、できるだけ時間を置かずに歯磨きをする習慣をつけましょう。鏡を見ながら、歯ブラシを様々な角度(上から、下から、横から)で当て、ブラケットの周り、ワイヤーの下、歯と歯茎の境目を、一本一本意識して磨きます。最低でも5分以上は時間をかけるつもりで、丁寧に行いましょう。
- 補助清掃用具はマストアイテム:歯ブラシだけでは、絶対に汚れを取りきることはできません。「タフトブラシ(ワンタフトブラシ)」でブラケット周りを、「歯間ブラシ」や「矯正用フロス」で歯と歯の間やワイヤーの下を清掃することは、もはや必須です。最初は面倒に感じるかもしれませんが、慣れれば短時間でできるようになります。
- 外出先でもケアを怠らない:学校や職場など、外出先で食後にすぐに歯磨きができない場合でも、最低限、強めに口をすすぐ(ぶくぶくうがい)だけでも、大きな食べカスを取り除く効果があります。携帯用の歯ブラシセットを持ち歩き、化粧室などで簡単に磨くだけでも、やらないよりはずっと良いです。マウスウォッシュの併用も効果的です。
- 定期的なプロフェッショナルケアを受ける:矯正治療の調整で来院される際には、私たち歯科医師や歯科衛生士が、専門的な器具を使って、普段ご自身では落としきれないプラークや歯石を徹底的にクリーニング(PMTC)します。また、磨き残しが多い箇所や、効果的な磨き方についてのアドバイスも行います。セルフケアとプロフェッショナルケアの両輪で、お口の健康を守っていきましょう。
食事制限は、装置の破損を防ぎ、治療をスムーズに進めるために重要ですが、食後のケアは、あなたの歯そのものの健康を守り、治療のゴールを最高の状態にするために、絶対に欠かせない要素なのです。
6. まとめ

ワイヤー矯正中の食事について、不安は少し和らぎましたでしょうか。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいします。
- 矯正中の食事制限は、「痛みへの配慮」「装置の破損防止」「虫歯リスクの軽減」のために必要。
- 硬いもの、粘着性のもの、繊維質のもの、前歯で噛み切るものは、特に注意が必要。
- 調整後など痛い時は、おかゆやスープなど、柔らかくて栄養のあるもので乗り切る。
- 慣れてきたら、「小さく切る」「柔らかく調理する」「奥歯でゆっくり噛む」などの工夫で、食事を楽しむ。
- 食事の内容以上に、食後の丁寧な歯磨きと補助清掃用具の使用が、虫歯予防と治療成功の鍵。
矯正治療は、確かに多少の我慢や不便さを伴う期間です。しかし、それは、一生ものの美しい歯並びと、健康な噛み合わせを手に入れるための、ほんの一時的な投資です。食事に関するルールを守り、日々のケアを丁寧に行うことが、結果的に治療期間を短縮し、より快適な矯正ライフを送ることに繋がります。分からないことや、困ったことがあれば、いつでも私たち専門家にご相談ください。あなたの矯正治療が、最高の笑顔でゴールを迎えられるよう、全力でサポートさせていただきます。
以上、東京都葛飾区の歯医者 新小岩いろは歯科・矯正歯科、院長の細谷 亜沙美でした。