矯正中に虫歯発見!どうなるの?治療の流れと絶対に避けたいリスク、予防法まで徹底解説
こんにちは。東京都葛飾区の歯医者、新小岩いろは歯科・矯正歯科 院長の細谷 亜沙美です。歯列矯正は、美しい歯並びを手に入れるための素晴らしい治療ですが、同時に、治療期間中は普段よりもお口の中のケアに、より一層の注意が必要となる時期でもあります。「矯正装置がついていると、歯磨きが難しくて…」そんなお悩みから、残念ながら治療の途中で虫歯ができてしまう、というケースもゼロではありません。
「もし矯正中に虫歯になったら、治療はどうするの?」 「装置を一旦外さないといけないの?」 「治療期間が延びたり、追加の費用がかかったりする?」
矯正治療を頑張っている患者様にとって、これは非常に大きな不安だと思います。虫歯ができてしまった時のショックはもちろんのこと、それが矯正治療の計画にどのような影響を与えるのか、心配になるのは当然です。今回は、そんな万が一の事態に備えて、矯正治療中に虫歯が見つかった場合の治療の流れ、そして何よりも、そうならないための効果的な予防法について、詳しく解説していきます。
目次
1. なぜ矯正中は虫歯リスクが高まるのか?ワイヤーとマウスピースそれぞれの注意点

歯列矯正中というのは、残念ながら、普段よりも虫歯になりやすい環境にあると言わざるを得ません。その最大の理由は、矯正装置がお口の中に入ることで、歯磨きが格段に難しくなり、プラーク(歯垢)が溜まりやすくなるからです。プラークは、単なる食べカスではなく、虫歯菌をはじめとする細菌の塊です。この細菌が糖分を分解して酸を作り出し、歯の表面を溶かすことで虫歯が発生します。矯正装置の種類によって、特に注意すべきポイントが異なりますので、それぞれ見ていきましょう。
- ワイヤー矯正(ブラケット矯正)の場合 歯の表面にブラケットという小さな装置を接着し、そこにワイヤーを通すため、歯の表面が非常に複雑な形状になります。ブラケットの周り、ワイヤーの下、歯と歯の間など、**歯ブラシの毛先が届きにくい「死角」**がたくさん生まれてしまいます。特に、奥歯のブラケット周りや、歯が重なり合っている部分は、意識して丁寧に磨かないと、あっという間にプラークが蓄積してしまいます。また、食べ物が装置に絡まりやすく、それが長時間歯の表面に留まることも、虫歯のリスクを高める要因となります。金属の装置だけでなく、目立ちにくいセラミックやプラスチックのブラケットでも、プラークの付着しやすさという点では同じです。ワイヤー矯正を選択された方は、これまで以上に時間をかけた丁寧な歯磨きと、補助清掃用具の活用が必須となります。
- マウスピース矯正(インビザラインなど)の場合 透明なマウスピース(アライナー)をご自身で取り外せるため、食事や歯磨きは普段通りに行えます。「だから、虫歯のリスクは低いのでは?」と思われがちですが、実はマウスピース矯正特有のリスクも存在します。それは、**アライナーを装着している時間が非常に長い(1日20~22時間以上)**ということです。もし、食後に歯磨きをしないまま、あるいは不十分なままアライナーを装着してしまうと、歯とアライナーの間に糖分や食べカスが閉じ込められ、常に歯が酸にさらされる状態になってしまいます。唾液には、お口の中の酸を中和したり、汚れを洗い流したりする「自浄作用」がありますが、アライナーによって歯が唾液から遮断されるため、その恩恵を受けにくくなるのです。また、アライナー装着中に、糖分を含む飲み物(ジュース、スポーツドリンクなど)を飲む習慣があると、虫歯のリスクはさらに跳ね上がります。マウスピース矯正は、その利便性と引き換えに、徹底した自己管理が求められる治療法なのです。
2. 「虫歯かも?」発見から治療開始までの基本的な流れ

では、もし矯正治療中に虫歯が見つかった場合、どのように治療が進められるのでしょうか。慌てる必要はありませんが、迅速な対応が重要です。
- 虫歯の発見 多くの場合、矯正治療の進行状況をチェックするための定期的な通院時に、歯科医師や歯科衛生士が虫歯を発見します。「しみる」「痛い」といった自覚症状が出てからでは、すでに虫歯が進行してしまっている可能性が高いです。だからこそ、症状がなくても、矯正治療中の定期チェックは非常に重要なのです。もちろん、患者様ご自身で「あれ?黒くなっているかも」「しみる感じがする」と気づかれた場合は、次の予約を待たずに、すぐに当院にご連絡ください。
- 虫歯の診査・診断 まず、発見された虫歯がどのくらいの大きさで、どの深さまで進行しているのかを、詳しく診査します。視診だけでなく、レントゲン撮影を行って、歯の内部の状態や、神経(歯髄)までの距離を確認します。矯正治療に影響を与えない、ごく初期の虫歯(経過観察でよいレベル)なのか、すぐに治療が必要なレベルなのかを、慎重に判断します。
- 治療方針の説明と計画 診査の結果、治療が必要と判断された場合、現在の矯正治療の段階や、虫歯の大きさ・場所などを考慮して、最適な治療方針をご説明します。虫歯治療を優先すべきか、矯正治療と並行して行えるか、もし装置を一時的に外す必要があるなら、その期間や、矯正計画への影響についても詳しくお話しします。患者様にご納得いただいた上で、治療計画を決定します。
- 虫歯治療の実施 計画に沿って、虫歯治療を行います。具体的な治療方法は、次のセクションで詳しくご説明します。
- 矯正治療の再開・継続 虫歯治療が無事に完了したら、必要に応じて矯正装置を再装着したり、新しいアライナーに移行したりして、矯正治療を再開・継続していきます。
最も大切なのは、虫歯の早期発見・早期治療です。小さな虫歯であれば、矯正治療への影響も最小限に抑えられます。定期検診を欠かさず、何か異変を感じたらすぐに相談するという意識が、スムーズな治療の鍵となります。
3. 矯正装置がついたまま?虫歯治療の具体的な方法と注意点

「矯正装置が付いているのに、どうやって虫歯を治すの?」これは、患者様が最も疑問に思われる点でしょう。虫歯の大きさや場所、そして矯正装置の種類によって、治療方法は異なります。
- ワイヤー矯正(ブラケット矯正)の場合
- 小さな虫歯の場合:虫歯がブラケットやワイヤーから離れた場所にあり、治療器具が届く範囲であれば、装置を付けたまま治療できることもあります。例えば、歯の噛む面の小さな虫歯などです。歯科医師は、限られたスペースの中で、慎重に虫歯の部分だけを削り取り、コンポジットレジンという白い詰め物で修復します。
- ブラケット付近や歯と歯の間の虫歯の場合:虫歯がブラケットのすぐ隣にあったり、ワイヤーが邪魔で器具が入らなかったり、歯と歯の間の虫歯で精密な治療が必要だったりする場合は、一時的にその歯のブラケットや、ワイヤーの一部を取り外して治療を行います。虫歯治療が完了したら、再びブラケットを装着し、ワイヤーを戻します。
- 大きな虫歯の場合:広範囲に及ぶ虫歯で、精密な型取りが必要な詰め物(インレー)や、被せ物(クラウン)が必要になる場合は、その歯のブラケットを完全に除去し、虫歯治療を優先します。そして、詰め物や被せ物が完成し、安定してから、再度ブラケットを装着し直し、矯正治療を再開します。この場合、治療の中断期間が少し長くなる可能性があります。
- マウスピース矯正(インビザラインなど)の場合 マウスピース矯正は、アライナーを取り外せるため、虫歯治療自体は比較的行いやすいと言えます。装置を外した状態で、通常通り虫歯の部分を削り、詰め物(主にコンポジットレジン)で修復します。 ただし、注意点もあります。詰め物によって歯の形がわずかに変わると、治療計画に基づいて作製されたアライナーが、歯にぴったりとフィットしなくなる可能性があります。そのため、虫歯治療を行う際は、なるべく歯の形態を変化させないよう、細心の注意を払います。もし、形態の変化が大きい場合は、再度歯型をスキャンし直し、アライナーを再作製する必要が出てくることもあります。
【治療期間への影響は?】 小さな虫歯を迅速に治療できた場合は、矯正治療の期間にほとんど影響はありません。しかし、ブラケットの着脱が必要になったり、大きな虫歯で治療に時間がかかったり、アライナーの再作製が必要になったりした場合は、その分、矯正治療の期間が数週間~数ヶ月程度、延長される可能性があります。
4. 最悪の場合…矯正治療を中断せざるを得ないケースとは

矯正治療中に発見された虫歯が、非常に大きく、歯の神経(歯髄)にまで達してしまっていた場合。あるいは、過去の治療歯の根の先に膿が溜まってしまっていた場合。このようなケースでは、単なる詰め物では治せず、「根管治療(歯の神経の治療)」が必要になります。
根管治療は、歯の内部の感染した神経や血管を取り除き、根の中を徹底的に洗浄・消毒する、非常に精密で時間のかかる治療です。この治療を行っている間は、歯に矯正力をかけることはできません。そのため、根管治療が完了し、歯の状態が安定するまでの数ヶ月間、矯正治療を完全に中断せざるを得なくなります。
さらに深刻なのは、虫歯があまりにも大きく、歯の大部分が失われてしまい、保存が不可能と判断され、「抜歯」に至ってしまった場合です。矯正治療は、全ての歯が存在することを前提として、精密な計画が立てられています。治療の途中で歯を1本失うということは、その治療計画そのものを、根本から見直さなければならないことを意味します。抜歯によってできたスペースをどうするか、全体の噛み合わせをどう再構築するか、場合によってはインプラントなどの別の治療が必要になる可能性も出てきます。これは、矯正治療の期間の大幅な延長や、追加費用の発生に繋がる、最も避けたいシナリオです。
このような事態を防ぐためにも、矯正治療を始める前の徹底した検査と、治療中の予防がいかに重要か、ご理解いただけたかと思います。
5. 虫歯ゼロでゴールを目指す!矯正中の最強セルフケア術

矯正治療中の虫歯は、治療計画に影響を与えるだけでなく、せっかく綺麗になった歯並びの歯が、詰め物だらけになってしまうという、審美的な問題にも繋がります。虫歯ゼロで、最高の笑顔で矯正治療を終えるために、歯科衛生士の視点から、効果的なセルフケアのポイントをお伝えします。
- 歯磨きは「回数」より「質」!:毎食後、そして就寝前の歯磨きはもちろんですが、特に重要なのは就寝前のケアです。時間をかけて、鏡を見ながら、一本一本の歯、ブラケットの周りを丁寧に磨きましょう。
- 矯正専用の歯ブラシを活用:ワイヤー矯正の方には、ブラケットの周りを磨きやすいように毛先が工夫された「矯正用歯ブラシ」や、細かい部分にピンポイントで届く「タフトブラシ(ワンタフトブラシ)」の使用が非常に効果的です。
- 歯間清掃は必須中の必須!:歯と歯の間は、虫歯の好発部位です。ワイヤー矯正の方は、「フロススレッダー(糸通し)」を使ってワイヤーの下にフロスを通したり、「歯間ブラシ」を使ったりして、必ず歯間のプラークを除去しましょう。「ウォーターフロス(口腔洗浄器)」も、装置周りの洗浄に役立ちます。マウスピース矯正の方も、油断せずにフロスや歯間ブラシを習慣にしてください。
- フッ素を味方につける:フッ素には、歯の質を強くし、酸に溶けにくい歯にする効果(耐酸性向上)や、初期の虫歯を修復する効果(再石灰化促進)があります。「フッ素配合歯磨剤」の使用はもちろん、「フッ素洗口液」を毎日のケアに取り入れることを強くお勧めします。
- 定期的なプロフェッショナルケアを欠かさない:どんなにセルフケアを頑張っても、磨き残しは出てしまうものです。矯正治療の調整で来院される際には、私たち歯科衛生士が、専門的な器具を使って、普段ご自身では落としきれないプラークや歯石を徹底的にクリーニング(PMTC)します。また、磨きにくい部分へのブラッシング指導も行います。これが、虫歯予防の最後の砦となります。
- 食生活にも注意:矯正中は、間食、特に甘いお菓子やジュースをダラダラと摂取するのは避けましょう。お口の中が酸性の状態が長く続き、虫歯のリスクを高めます。
6. まとめ

矯正治療中の虫歯について、その不安は少し解消されましたでしょうか。
- 矯正中は、装置によって歯磨きが難しくなり、虫歯リスクが高まる。
- もし虫歯が見つかっても、早期であれば、矯正治療への影響は最小限で治療可能。
- 治療は、装置を付けたまま行える場合と、一時的に外す必要がある場合がある。
- 神経の治療や抜歯が必要になると、矯正治療の中断や計画変更など、大きな影響が出る。
- 毎日の丁寧なセルフケア(特に歯間清掃とフッ素利用)と、定期的なプロのクリーニングが、虫歯予防の最強タッグ。
矯正治療は、あなたと私たち歯科医院スタッフとの、長い二人三脚の旅です。その旅を、虫歯というアクシデントなく、最高の笑顔でゴールするために。私たちも全力でサポートしますが、何よりも大切なのは、患者様ご自身の「自分の歯は自分で守る」という強い意志と、日々の努力です。何か困ったこと、磨きにくい場所があれば、いつでも遠慮なく私たちにご相談ください。一緒に、虫歯ゼロを目指しましょう!
以上、東京都葛飾区の歯医者 新小岩いろは歯科・矯正歯科、院長の細谷 亜沙美でした。